noven’s

ただ生きてるだけなのにどこか哀しくて、本人大真面目なのになんだか笑える。おっさん自身を含めたそんな愛すべきダメおやじ達を、少しのフィクションを交えながら紹介したいと思います。

愛すべきダメおやじコレクション #1

#1

 

おっさんはあるプラントで働いている。規模の大きなプラントだ。残念ながらおっさんはそこの社員ではなくて、そこに常駐している保守、保全、修理などを請け負う会社の、そのまた下請けの業者だ。

常駐しているいわば『何でも屋』で、だからプラントの社員さんはおっさんにとってお客様になる。で、おっさんは二次なので直接お客様とやりとりすることは殆どない。

お客様から元請さん、そこからおっさんのとこへと、仕事の依頼は伝言ゲームのように下りてくる。

何でも屋だから仕事の内容は雑多で、点検や保守業務の他に機器の分解点検工事を請け負ったり、要請されれば草刈をしたり、誰かの出したゴミを片付けたり、重機に乗って除雪したりもする。機械が相手の仕事なので午前2時に電話で起こされたりもするし、24時間家に帰れない時もある。

一度なんかは地域住民で組織される『○○の会』とやらが視察に来るというので、視察経路の手摺を全部拭いて欲しいという依頼まであった。上空をテレビ局のヘリが飛ぶから、指定箇所にブルーシートをかけてくれって地図を渡されたこともあったなあ。

で、おっさんの会社はというとそこそこにマイルドなブラック企業なので、賃金が安いから人が寄り付かん。来たとしても人生に膿み疲れたような四十後半から六十過ぎのおやじばっか。こないだ初めてウォーキングデッドを見ててなんか親近感湧くなあと思ってたら目がそっくりだった。クリソツ。

そんなアンデッドたちは一様にキレが悪い。おっさんが「そろそろ現場にいきましょうか」と声をかけたとたんに「ウンコしてきていいですか」とか言い出す始末。三十分も休憩させてやったのになぜ今ウンコか。と思わないでもないがいつものことなのでタバコを吸いながら静かに待つ。トイレから戻ってきたおやじが「すいません」でもなく「おまたせしました」でもなく「さあ、行きましょうか」でもなく黙っておっさんの隣に座ってタバコに火をつける。プシュって音がしたので目をやるとヤロウ缶コーヒーを飲み始めた。わけがわかんねえ。

「すぐ行くって言ったよね?」

「え、だってタバコ吸ってるから……、まだ休憩してていいんだと思いました」

はあ。

「……それ飲んだら行きましょうか」

実話である。

そんなおやじ達が入れ替わり立ち代わり入ってきては辞めていく。一年で10人近くが入れ替わった。ほぼ1ヶ月ペースだ。そこだけとると恐ろしくブラックな会社に見えるがそんなことはない。前述したように突発の仕事もあるにはあるが基本週休二日だし、祝日も休みだし、残業することも殆どない。なのになんで異様なまでに人が続かないかっていうと来る者拒まずで採用するからに他ならない。

言うたって3Kと呼ばれる業種、若い人には敬遠される。賃金が安いからやる気のある人材と家族持ちは来ない。あぶれている四十過ぎの一人もんばかりがやって来るのは必然なのである。履歴書は引換券ではないし会社は駆け込み寺じゃない。その辺ちゃんと考えないからこうなった。酒臭い歯のないおやじ達がたむろする事務所の様は自立支援の施設のようだ。

で、前述した10人である。その半分は朝電話をかけてきて「頭が痛い」だの「熱がある」だの「腰が痛い」だのと言ってそのまま来なくなるパターン。もう半分は突然出社しなくなるパターンだ。珍しく「もう辞めたいんです」とおっさんに相談してきたおやじがいたので理由を聞くことができたのだが、曰く「こんな安い給料でここまでやらされるとは思わなかった」だそうだ。

それ言われるとしょうがない。「わかりました」と言うしかない。上に伝えておきます、と。

なんにもやらせてないんだけどなあ。一週間も経ってないのにもう判断しちゃうのかい?

若い子ならばそこまで言うかも知れない。でも毎朝酒臭くて現場の脇でゲロ吐いちゃうような五十近いおやじには何も言ってやらない。

 

で、そんなこんなで事務所に抗議したら現場サイドで面接することになりまして、それ以降は突然来なくなる人もいなくなりました。

 

和気藹々としたアットホームな職場です。