noven’s

ただ生きてるだけなのにどこか哀しくて、本人大真面目なのになんだか笑える。おっさん自身を含めたそんな愛すべきダメおやじ達を、少しのフィクションを交えながら紹介したいと思います。

愛すべきダメおやじコレクション #5

#5

 

知人のNさん,ずっと単身赴任中だ。

もう10年近くになる。

年に二度帰れればいいほうらしくて、なんとかゴールデンウィークに算段をつけてたんだけれども、緊急事態宣言で予定が潰れてしまった。

 慣れると一人もいいもんだよ、とタバコをくわえる横顔をみて、まあ本心じゃないだろなとおっさんは思う。

 Nさんには息子が二人いる。

お兄ちゃんはもう成人してて、弟くんはこないだ中学校に入った。

 勝手にデカくなっちゃうんだもん、弱っちゃうよな。と、煙を吐きながら遠い目をする。

 こないだ弟くんにLINEで、母さんいる? ってきいたら

『知らない』

と、返信が来たそうだ。

そんで続けざまに、『バイバイ』だって。

 キャッチボールにもなりゃしない。

なげやりにボールを返されて、間髪いれずにグローブまで放られた。

 そりゃそうだよな、とNさんタバコをもみ消す。

時々家に来る他所のおじさんみてえなもんだ。

Nさん自嘲する。

それから、思春期だよ、あんたも覚悟しな。とちょっと意地悪な目でおっさんに笑う。

 

おっさんにも息子が二人いる。

長男が5年生で次男が2年生。

そういえば、長男と手をつなぐことがなくなった。

いつからか、駐車場なんかでもさっさと車を降りて勝手に歩いて行くようになった。

もう手をつながなくたって心配ないとおっさんは知っている。

 本当だな。

でかくなったもんだ。

急に手握ったりしたら、きっと恥かしがって嫌がるだろうな。

 それでもまだパパ、パパと呼んでくれる。

 いつまで続くだろう。

 こないだゲームしている背中に向かって、おい、と呼んだら一回無視された。

もういちどおい、と呼んだら、ゲームに目を落としたまま、なに

と言いやがるので、呼んだだけと言ってやった。

また無視された。

 普段からおっさんの仏頂面をみてるからそうなるのか。

 そのうち家族より友達のほうが大事になる。

みんなで出かけようって声かけても俺行かねえ。なんて言いだす。

 おっさんが通った道を、こいつも歩いてるんだろう。

親父の気持ちが四十過ぎてやっと少しだけわかった。

 そういえば、犬を洗いにきてくれと言われてたんだった。

素直に顔を見せに来いと言わないあたりが親父らしい。

 お袋は時々おっさんに、

あんたのそういうとこお父さんにそっくり、と溜息混じりにいう。

 奥さんは時々おっさんに、

パパのそういうとこお義父さんにそっくり、と苦笑いしながらいう。

 若いときには絶対似たくねえ、と思っていたが、最近はあんまり悪い気がしない。

息子たちにそう思われるまで、せいぜい頑張って生きねばならん。

色んなことを考えさせてくれたNさんにちょっとだけ感謝した。

そんで昨日、Nさんが一生懸命慣れないスマホをいじくってるもんで、息子にメッセージでも送ってんのかとそうっと画面を覗き込んだら、野郎ここんとこご無沙汰のキャバのお姉ちゃんに一生懸命LINEしてやがった。

はは、一人もいいもんだって本心じゃねえか。