noven’s

ただ生きてるだけなのにどこか哀しくて、本人大真面目なのになんだか笑える。おっさん自身を含めたそんな愛すべきダメおやじ達を、少しのフィクションを交えながら紹介したいと思います。

親父の猿股、おっさんのパンツ

おっさんはパンツを捨てない。

何故か。

自分の管轄ではないような気がするからである。

そんなことはないのに、無断で捨てたら奥さんに咎められるような気がする。だから捨てない。

新しいのがあるのに、と奥さんが言う。うん、と答えて結局クタクタを選んで穿いている。それが奥さん少し気に食わない。いつに買ったかわからないパンツは、未だに袋に入っている。

先日のことである。風呂上りにパンツ一丁でリビングに行き、薬箱を物色しようと板の間に尻をついた。途端、冷やりとした感覚が背筋を這い上がって「あ、濡れとる!」と叫んで飛び上がった。そんなに冷たかったわけではない。得体の知れない液体が尻に付いたと思ったのである。

濡れるはずのない場所である。まことに気持ちが悪い。奥さんも当然ながら「え、どこ?」とくる。ここや、ここや。と、おっさんちょうど奥さんに尻を向ける格好で四つんばいになった。一瞬の静寂。後、火がついたような笑い声。おっさんケツに何かが引っ付いていると思って慌てて払う。奥さん余計に笑う。

何を失礼な、人の慌てるのがそんなに可笑しいか。おっさん気を悪くする。

「違う、違う」と奥さん涙を滲ませながらまだ笑う。

何のことはない。パンツが破れていたのである。そこだけむき出しの素肌が板の間に触れて冷たかったのだ。

「はいそれ脱いで」

奥さん少し命令口調だ。

「新しいの穿いて、脱いだヤツに今までありがとうしなさい」

ついに来たと思った。正直に言う。おっさん今までありがとうが嫌だったのである。

着古した下着や穿き古した靴下を捨てる時、奥さんやたら今までありがとうを強要してくる。ゴミ箱に捨てたのを拾い上げてきてまで今までありがとうをさせるのである。

感謝したくないと言っているのではない。おっさんの小汚い尻を長年風雪から守り抜いてくれた歴戦の老戦士のごときパンツである。感謝はしている。

それでいいじゃないかと思う。口にしなくたって気持ちはある。それでいいじゃないかと。

感謝や慰労は儀礼ではない、真心だろう。そんなことをつい考える偏屈者の今までありがとうは、やはり虚ろに響く。それでも奥さんの中では一つ区切りがつくので、クタクタのパンツは晴れてお役御免になるのである。

そんなこんなでおっさんはパンツをなかなか捨てない。

 

おっさんの両親は離れて暮らしている。一頃親父だけがおっさんの家に起居していた。複雑な事情があってではなく仕事の都合である。

ある時、親父がつっけんどんに「お前、これ穿け」とパンツを投げてよこしたことがあった。一旦背中を向けてから振り返って、「新品やぞ」とわざわざ付け加えた。

お袋がサイズを間違えたらしい。おっさん前述したようにパンツにあまりこだわりがないので、そのいかにも年寄りくさい柄のパンツを「ありがとう」と言って受け取った。サイズが合わないと言うからには一回穿いているのである。一回穿いたら新品ではない。とはいうものの自分の親父なので気にはならなかった。が、そのパンツが後々おっさんを羞恥のどん底に叩き落すことなぞ、その時はまだ知り得なかったのである。

おっさんが貰ったそのパンツは、幾度も親父の下へ帰って行った。洗濯のたびに奥さんがせっせと親父の部屋へ運んだからだ。なんせ買った覚えのない柄のパンツである。こんなに年寄りくさいのはお義父さんの物に違いないと思うのも無理はない。親父も親父で自分の下着の柄なんぞいちいち気にしていないので、せがれにくれてやったパンツだと気づくためには一回穿かにゃあならん。そんでもって「あ、小せえ」とつぶやいて舌打ちとともに脱ぎ捨てるのである。

そんな事が幾度か続き、親父ついに堪忍袋の緒がきれた。四十近い息子の下の名を、件のパンツに油性マジックで書きなぐったのである。ひらがなで。

前述したようにおっさんパンツにまったく頓着しない。自分の名前が書いてあるのも気付かずにいた。当然会社にも穿いて行く。

そして悲劇は起こった。おっさん名前入りのパンツを会社のシャワールームに落としてきたのである。

安普請の脱衣所に打ち捨てられたパンツはひどく汚らしく見える。おっさんそれが自分の物だとはついぞ気付かなかった。会社の誰もがその存在に気付き、疎ましく思い、そして無視した。おっさんもその一人だった。どっかの阿呆が忘れてやがる、はよう気付かんかい。と腹の中で悪態までついた。しかしおっさん含め誰もパンツについて触れようとはしなかった。総パンツウォッチャー現象である。かくして一週間もの間、パンツは脱衣所に放置されることになった。

均衡を破ったのは事務員さんだった。彼女は床に落ちたパンツを無視したりしない。自分が汚れ役を引き受けることを厭わないのだ。聖女である。パンツに言及したが最後、「じゃあお前が捨てて来い」と言われることを恐れて雁首そろえてシカトを決め込んだおっさんら穢れたる罪人は、聖女の言葉なき行動によって断罪されたのである。

彼女の清き行いはそれだけに留まらなかった。おっさんのとこへやって来て、「パンツ落ちてたよ」と教えてくれたのである。なんのことだか分からなかった。おっさんのパンツであるはずがない。よしんばそうだとしてもおっさんの物であると分かるはずがない。ははん、そうか、カマをかけてやがるな。全員にそうやって近づいて、阿呆な持ち主を炙り出そうって算段だな。何が聖女なもんか、おっとろしい女よ。

おっさん瞬間的にそこまで考えて、

「……俺のじゃない」

と、蚊の鳴くような声で答えた。

その後は推して知るべしである。お白州に引きずり出された越後屋は、開き直る度胸もないままに罪を受け入れたのだった。

 

その方、市中引き回しの刑に処す。パンツとともに。

 

 

 

愛すべきダメおやじコレクション #5

#5

 

知人のNさん,ずっと単身赴任中だ。

もう10年近くになる。

年に二度帰れればいいほうらしくて、なんとかゴールデンウィークに算段をつけてたんだけれども、緊急事態宣言で予定が潰れてしまった。

 慣れると一人もいいもんだよ、とタバコをくわえる横顔をみて、まあ本心じゃないだろなとおっさんは思う。

 Nさんには息子が二人いる。

お兄ちゃんはもう成人してて、弟くんはこないだ中学校に入った。

 勝手にデカくなっちゃうんだもん、弱っちゃうよな。と、煙を吐きながら遠い目をする。

 こないだ弟くんにLINEで、母さんいる? ってきいたら

『知らない』

と、返信が来たそうだ。

そんで続けざまに、『バイバイ』だって。

 キャッチボールにもなりゃしない。

なげやりにボールを返されて、間髪いれずにグローブまで放られた。

 そりゃそうだよな、とNさんタバコをもみ消す。

時々家に来る他所のおじさんみてえなもんだ。

Nさん自嘲する。

それから、思春期だよ、あんたも覚悟しな。とちょっと意地悪な目でおっさんに笑う。

 

おっさんにも息子が二人いる。

長男が5年生で次男が2年生。

そういえば、長男と手をつなぐことがなくなった。

いつからか、駐車場なんかでもさっさと車を降りて勝手に歩いて行くようになった。

もう手をつながなくたって心配ないとおっさんは知っている。

 本当だな。

でかくなったもんだ。

急に手握ったりしたら、きっと恥かしがって嫌がるだろうな。

 それでもまだパパ、パパと呼んでくれる。

 いつまで続くだろう。

 こないだゲームしている背中に向かって、おい、と呼んだら一回無視された。

もういちどおい、と呼んだら、ゲームに目を落としたまま、なに

と言いやがるので、呼んだだけと言ってやった。

また無視された。

 普段からおっさんの仏頂面をみてるからそうなるのか。

 そのうち家族より友達のほうが大事になる。

みんなで出かけようって声かけても俺行かねえ。なんて言いだす。

 おっさんが通った道を、こいつも歩いてるんだろう。

親父の気持ちが四十過ぎてやっと少しだけわかった。

 そういえば、犬を洗いにきてくれと言われてたんだった。

素直に顔を見せに来いと言わないあたりが親父らしい。

 お袋は時々おっさんに、

あんたのそういうとこお父さんにそっくり、と溜息混じりにいう。

 奥さんは時々おっさんに、

パパのそういうとこお義父さんにそっくり、と苦笑いしながらいう。

 若いときには絶対似たくねえ、と思っていたが、最近はあんまり悪い気がしない。

息子たちにそう思われるまで、せいぜい頑張って生きねばならん。

色んなことを考えさせてくれたNさんにちょっとだけ感謝した。

そんで昨日、Nさんが一生懸命慣れないスマホをいじくってるもんで、息子にメッセージでも送ってんのかとそうっと画面を覗き込んだら、野郎ここんとこご無沙汰のキャバのお姉ちゃんに一生懸命LINEしてやがった。

はは、一人もいいもんだって本心じゃねえか。

 

愛すべきダメおやじコレクション #4

#4

 

「ゆ、Uです…… よ、よろしくどうぞ」

ちょっとおどおどした感じで挨拶をしたUさん。

挨拶を返しながら、あ、誰かに似てる、と思ったらイワイガワのジョニ男だった。

「最初は慣れないことばっかりだと思いますが、遠慮せず何でも聞いてくださいね」

「はあ、よろしくお願いします」

てな感じで最初はごくごく普通の印象だったUさん。聞けば59歳だという。

「失礼ですけど、その御年でよく転職しようと考えましたね」

「いやあ、実は……」

Uさん前職は建設機械の整備士で、若い頃からおんなじ会社でずっと勤め上げてきたのだが、社長が代替わりした途端に経営方針が変わって、現場の人間にもノルマが課せられるようになってしまった。数字の取れない居心地の悪さに辞めてしまったんだと言った。曰く「前社長派だったんで当たりが強かった」らしい。

ふうん、気の毒な話だ。

「まあ、ここはノルマがあるような職場じゃないんで、一つずつゆっくり覚えましょう」

おっさんそう言いながらも、腹の中ではこの人大丈夫かな。とそれとなくUさんの立ち居振る舞いを精査してた。というのも、この頃おっさんの会社では尋常じゃないくらい人の出入りが激しく、ほぼ一ヶ月ごとに人が辞め、辞めては入るを繰り返していたからである。理由は簡単で、本社の面接がザルだったのだ。とにかく来る者拒まずに採用した。しまくった。一人採用するごとに金一封でも出んのかってくらいに。四十過ぎなのに職歴ゼロの人間まで平気で採用していたのである。理由はわからん。わからんが元請さんカンカンである。なんせ名簿の登録と抹消を一ヶ月ごとに申請するのだ。口さがない人は「ねえ、いい加減にしてよ。こんなこと続けてたらアンタの会社どんどん信用落としちゃうよ」などと人事とは関係のないおっさんにまで文句を言い出す始末。肩身が狭いったらなかった。とにかくそういう時は会社を代表して平身低頭謝るしかない。矢面に立つのは元請さんと密に接しているおっさんら現場の人間なのだ。

というわけで、59歳という年齢にもかかわらず現場に相談もなくUさんを採用した会社に腹が立ったし、Uさん自身にも最初はいいイメージが湧かなかった。色眼鏡で見てしまうのも無理からぬことなのである。

そんなおっさんの偏見をよそにUさんよく働いた。夏だろうが冬だろうが真っ赤に焼けた鉄や巨大な油圧ダンパーを相手にしてきた人である。年季が違った。若い奴らに混ざって引けをとらないどころか、先頭に立って大ハンマーを振るったりもした。目を見張る身体のキレに、あっという間におっさんの偏見は氷解したのだった。

だがみんなと打ち解けるにしたがって、Uさんの特異な癖が表面化してきた。

 

 

Uさん思ったことが勝手に口から漏れる。

もう独り言ってレベルじゃあない。イマジナリーフレンドが多分5人くらいいる。脱衣所からでっかい声がするので呼ばれたのかと思って見に行ったら、Uさんパンツ一丁で鏡に向かって一人でしゃべってた。鏡越しに目が合ってんのにまだ止めないからおっさん怖くなって逃げた。

隣の個室に入ったのがUさんだとすぐわかる。

おっさん毎朝会社のトイレでウンコするんだけども、タイミングが被る人が何人かいる。隣に人の気配がすると少し緊張するよね。なんか気を使う。で、その日も隣に誰かが入ってきて、ガサガサと音がした後に腰掛ける気配がした。

「んふぅ~、んふぅ~、アッ! ……あ違うか」

隣から聞えてきた声である。

「んふぅ~ ……あっ、ああ、あぁん」

プゥ~。

「おっおっおっ、おお~、す、スゴイのう、スゴイのう!」

おっさん身体が強張ってウンコが引っ込んだ。Uさん誰と喋ってんの? ウンコ?

 

Uさんハイレゾにこだわる。

Uさんはオーディオマニアだ。自室に自分で作ったタンスくらいデカいスピーカーがあるんだと。「部屋何畳?」って聞いたら6畳だと。難聴なのその所為だよ、きっと。

最近はハイレゾが良いという。物欲に勝てずについに20万のアンプをポチったらしい。それでも飽き足らず音楽鑑賞用のパソコンのノイズが気に入らんと、筐体を開けてシルクの綿を詰めるというオカルトめいた音質改善をせっせと実践している。本人曰く「劇的に音が変わった」らしいのだがおっさん家が燃えないかと心配している。

 

Uさん風呂に入ってくれない。

なんか理由があんのかと思ってずっと我慢してたんだけれども、夏が近づくにつれてUさんのワイルドスパイシーなスメルが攻撃性を増してきた。月曜の朝イチなのに、あ、Uさんさっきまでココにいたな。って分かるくらい強烈だったもんで、散々考えあぐねた挙句、傷つけないように精一杯気を使って恐る恐る尋ねたら、糖尿の気があるからかもしれない、不快な思いをさせてごめんなさい。なんて謝られたので、もうおっさんものっすごい後悔して、不用意に心無いことを言って申し訳なかった、どうか許して欲しい。と誠心誠意謝罪した。その様子を近くで見ていたK君が、

「いや、Uさん風呂に入ってないだけだよねえ。最後に風呂入ったのいつ?」

「えーっと、確か…… き、金曜日」

冗談じゃねーや、謝って損した。謝罪を返せ、逆に謝れ! 

 

Uさん念力が使えると言い張る。

人差し指で狙いを定めて念じると電線のスズメが気絶すると言う。じゃあやって見せてよというと人が見てたら無理って言う。60のおやじがそんな小学生みたいな嘘つくわけもないし、まっすぐに目を見つめられて言い張られるとそれ以上言及できない。ただただ怖い。

 

一瞬で周囲の人間の食欲を消し去る超弩級のクチャラー。

どうやったらそんな音が出んだ。ってくらいノイジーイーティング。味噌汁を啜るだけなのにズチャチャチャチャ…… ととんでもない音がする。むかし懐かしのスライムを、怒りに任せて突っつきまわしたような咀嚼音。いなたいおやじの口から溢れるナマASMR。こんなの誰も歓迎しない。

耐えられなくてさすがに苦情を入れたら「わし、入れ歯だから……」とまた指摘した方が罪悪感に苛まれるような言い方をしやがるが先日の風呂の件もあるのでもう騙されない。

「俺のお袋は総入れ歯だけどそんな音立てたことない」と言ってやる。次の日から静かになった。やればできるじゃねえか。

 

そんなUさんはまだおっさんの会社にいます。もう6年以上になるのかな。早く隠居したいと言ってた割には嘱託扱いになっても契約を継続しています。残念ながら高齢者扱いになってしまったので離れた部署に行きましたが、今でも元気そうです。力持ちだし機械の不調を音で察知できる優れたエンジニアだし、頼りになるUさんとまた一緒に仕事がしたい。ふとしたときにそう思います。

 

 

 

 

愛すべきダメおやじコレクション #3

#3

 

おっさんの職場にはよく旅の人がやってくる。

経緯はよくわからないが、日本全国現場から現場へ渡り歩いている人のことだ。

おっさんはそういう人たちのことを旅の人と呼んでいる。

繁忙期には人工が足りないのでお世話になる。身についた処世術なのかみんな愛想がいい。Yさんはそんな旅の人だった。

おっさんの職場では作業従事者一人ひとりに煩雑な書類がついて回る。現場に入る前段階の手続きがちとややこしい。なので事前にYさんの身分証のコピーやら証明写真やらを送ってもらったのだが…… うーん。

 

Yさん53歳、前歯がないのに満面の笑み。

 

まったくの偏見である。おっさん自分が偏見まみれなのを自覚している。でも歯がないのはダメだ。ダメなんだ。

おっさんこれまで色んなおやじと交友してきたが、この人ダメだなー、と思うのはみんな前歯がなかった。ある日突然来なくなったり、親しくないのに金貸してくれと言ってきたり、二日酔いで出社してきて現場の隅でゲロ吐いてぶっ倒れてたり。

やな予感がするなあと思って当日の朝待ってたら来なかった。その日の夕方事務所から連絡があり一日遅れで入構するからよろしく、と言われた。

はたして翌日やってきたYさんはやはり酒臭かった。ダブル役満である。

「おはようございますぅ~」

やけに元気がいい。聞けば鈍行を乗り継いで来たらことのほか時間がかかり、途中であきらめて宿に直行したとのこと。

「昨日一日人待たせてたって自覚、あります?」

「あはは、すいませぇ~ん。ここ良いとこだねえ」

まったく悪びれてない。おっさんも力が抜けたんで二人で元請さんの事務所へ向かった。

Yさんよく喋る。喋りっぱなし。どこどこの何々は旨かったとか、ここの特産品はいつが旬だとか、そんな話ばっかり。現場に入ってもそれはかわらず、誰彼かまわず話かけては人の手を止める。しょうがないので道具の手入れをお願いしたら、意外とそれはちゃんとやった。Yさん初日から一人で雑用する人になった。

Yさんやたら返事がいい。

「了解しましたッ!」

「以後気をつけます!」

で、なんにも聞いてねえの。注意した直後に危険行動をとる。2トン強の吊り荷の下に入り込んだり、安全帯も着けずに高所に上がったり、そのまんま丸腰でカイジみたいに鉄骨の上をひょいひょい歩いてっちゃったり、とにかく危なくてなんにもさせらんないの。しょうがないからおっさんほぼ付きっ切りで、その頃にはもう敬語使うのもめんどくさくなっちゃって「いいからこっちきて見てろ」「触んなっつってんだろ」とかそんな風。

まあとにかく、約束の期限は2週間ほどなので、これさえ終わったら、これさえ終わったら、とおっさん自分に言い聞かせてた。この頃から朝目覚めると同時に深い溜息が出るようになった。

 

Yさん入社しちゃった。

「ここホントに良いとこだねぇ。海近いしさ、山もあるしさ、俺ここ住んじゃおっかなー」

「はは、ウチ誰でも採用するから言えば入れるかもよ」

冗談だと思ってた。まさか本当に採用するとは思ってなかった。社服着て目の前に現れて「本日からよろしくお願いしますッ!」って敬礼してんの。眩暈がして倒れそうになった。マジか。

 

Yさんおねしょする。

おっさんの会社は年に数回出張がある。Yさんも行きたいと言い出したので連れて行くことにした。全国的に有名な名産品があるとこなのでYさん朝から大はしゃぎである。ウザい。仕事だということをすっかり失念しているご様子。案の定その日の現場ではいつにもまして上の空だった。昼になったら道の駅に行かしてくださいと、そればっかり連呼していた。少し怒ってやった。

Yさん昼飯も早々に道の駅に行くと言い出した。許可したらなんでかおっさんも連れて行かれた。聞けば遠方に息子さんがいるという。奥さんとは離婚していて息子さんともしばらく会っていないそうだ。名産品をたくさん送ってやるんだと嬉しそうだった。

巨大な段ボール箱にパンパンに買い込んだものを詰め、サービスカウンターで発送手続きをするYさんは嬉々としていた。初日なのに有り金をほとんど使ったようだ。

夕方現場を閉めて宿に入る。何十年もお世話になっているおなじみの逗留先だ。漁師町なので魚がむちゃくちゃ旨い。その上信じられないくらい豪勢な飯が出る。聞いたら網元だそうで、新鮮な旬の魚は絶品だ。このときばかりは全員仕事を忘れる。このためだけに来たがる奴も多い。おっさんもその一人だ。Yさんも誰かから聞いて来たがったんだろう。

Yさん上機嫌すぎるくらい上機嫌だった。昼に息子に荷物を送ってやれたのがよほど嬉しかったようだ。ビールが大瓶2本まで会社から支給されるのだが、あとは俺が払うからとじゃんじゃん酒を注文しだした。仕事で来てんだぞ、と諌めても言うことを聞かない。結局大瓶6本を一人で空けて続きは二階でやりましょうと焼酎をぶら下げてきた。泥酔いだ。階段から落ちそうになるのをなんとか押し上げて寝床に転がす。もう寝たかと思ったら「ションベン」とつぶやいてムクッと起き上がり、よろめきながら出て行った。今思えばこの時に焼酎を隠してしまえばよかったんだが、おっさんもうメンド臭くって早く寝かして退散しようと焼酎のビンが目に入っていなかった。

Yさんが戻ってきてドカッと腰を下ろし「さあ呑みましょう」と言うのでいい加減にしろと怒ったら「そういうとこがあんたダメなんだよ」などと抜かしやがるのでぶん殴ってやろうかと思った。だいたいおっさんは下戸なのである。まったく呑めないの。

素面で付き合ってやったのにその言い草は何だバカヤロウ。と何か言ってるのを尻目にほっといて部屋に戻った。焼酎はその後一人で空にしたようだ。

後で便所に行ったら床がベチャベチャに濡れていた。Yさんが小便を撒き散らしたのだ。イライラしながら掃除して、血が出るほど手を洗った。

この後は親方談なのだが、夜中に気配がして目を覚ますと部屋のふすまが半分開いていて、なんだろう? と薄暗がりに目を凝らすと全裸のYさんが部屋をじいっと覗き込んでいたらしい。

「なにしてやがる!」

とびっくりして飛び起きたら何にも言わず去っていったと。なんだそれ、怖えよ。

その話を翌朝に聞いたのだが、一緒にいたS君も「僕Yさんと同室だったんですけど、夜中に目を覚ましたら全裸であぐらをかいて、部屋の隅をぼうっと見てました。気味悪かったです」と教えてくれた。

はて? とYさんの謎の行動が気になっていたのだが、それは昼過ぎに解決した。本社に苦情の電話が入ったのである。布団のクリーニング代金を払ってほしいと。

Yさん泥酔して寝小便したのだった。で、こりゃまずいと思って全裸でウロウロしてたんだろう。結局誰にも相談できずにごまかそうとしてバレちゃったのだ。どうにもならんダメおやじである。その後どうなったのかは知らん。もしかしたら自腹でクリーニング代金を払わされたのかもしれん。

 

Yさん必要なものと欲しいものの区別がつかない。

Yさんは給料が入ると馬鹿みたいに豪遊する。つってもおっさんの会社の給料である。豪遊といってもたかが知れてる。それなのに給料日にはいつもの弁当を断って、わざわざ昼にうなぎを食いに行く。たまには良いもん食わなきゃ、だそうである。

そんで酒を買う。もう有り金全部酒を買う。一か月分かというとそうではなくて、どんなにたくさん買っても一週間ももたない。で、最初の週でお金がなくなる。残りの3週はタバコも吸えない。誰彼かまわず金の無心をするもその頃にはもう誰も相手にしてくれず、しかたがないので会社に前借する。おっさんの会社は前借制度なんてないんだけれども、死なれちゃ困るんでしぶしぶ貸す。貸すんだけれどもYさん残金と限度額の区別もつかないような人なので、前借申請を出しまくる。空手形の乱発である。会社も貸し渋る。さすがに貸し剥がしはないが、Yさんの財政管理を会社が行うことになった。Yさん好きな酒が自由に飲めなくなってヨーダみたいになってった。弁当屋の親父が気の毒がって残り物の白米だけはくれるようになった。Yさんその白米でなんとか生きていて、それで懲りるかと思えば給料日にはやっぱりうなぎを食いに行く。

金の勘定も底の抜けたどんぶりで、お金があるときは1万円を出してきて「これでみんなで何か飲みなよ、釣りは取っといて」と親方みたいな顔して言う。底抜けのアホである。現場に5人しかいねえのにそんなの出してどうすんだ。だいたい自販機に入んないからね、Yさん。

そういう時はおっさん「そのうちタバコ吸う金も無くなるくせに何言ってんだバカ」と言ってやる。「その金は自分のために取っとけ、そんでちょっとぐらい節約しろバカ」と言ってやる。そんでジュースを買ってやる。出した金を無理やり引っ込めさせてやって、そのしょーもない面目をつぶしてやる。若いのの中にはニヤニヤしながら受け取る奴もいるかもしれない。本人がくれてやるって言うんだからきっと悪いことではないのだろう。でもバカにつけ込んでるみたいで気分が悪い。一万円の価値が日本一分からないような人だった。

 

Yさんエルグランドを買ってくる。

Yさんは職場の近所にアパートを借りてもらって住んでいた。そんで自転車で通勤してた。半年くらいそうしていたが、そのうち雪が降ってきて、なんぼ近いったって自転車だと危ないし軽トラくらいならなんとかなるだろ、安いのでいいから買いなよ。と薦めたら「そうだね、安い軽自動車探すわ」と言ってある日突然エルグランドに乗ってきた。呆れた。

「これスゲー安かったのにいい車なんだよ!」とYさんが得意げに見せてくれたのは、恐らく初年度登録から13年以上経過しているシャコタンのエルグランドだった。どんな車屋に行ってこんなの掴まされてきたんだと思ったら地元の知り合いが格安で譲ってくれたらしい。県外ナンバーのDQN臭漂うエルグランドの横でYさんご満悦。燃料代と税金のことはきっとなんも考えていない。

名義変更は俺がやるから、なんて調子の良いことを言って、他人名義のまんまで車検が切れるまで乗り転がした後、未納の税金が払えず結局アパートの駐車場に放置されることになったエルグランド。毎月駐車場代を払いながら再び自転車通勤するハメになったYさん。ここまでくるとかける言葉なんてない。その後車の名義と未納の税金問題がどうなったのかはおっさん知らない。

 

いろいろと書いたがYさんの話題はつきない。他にも

Yさんコソコソと他人のシケモクを集めて一本のタバコを作り上げることに成功する事件。とか

Yさんアパートの部屋いっぱいにイカを干したら危うく裁判沙汰になりかける事件。

とか

Yさん家の前で車にはねられるも運転手が若いお姉ちゃんだったので格好つけて見逃してやって2週間動けなくなる事件。

とかエピソードは山のようにあるが、全部書いてると一冊の本が出来ちまう。なんでこの辺にしたいと思う。

結論を言うとYさん2年ほどで退職して行きました。「もう二度と来ねえよ!」と捨て台詞を吐いて去りました。ここまでに書いてきたような人だったんで若い子との折り合いが悪かったんです。些細な口論がきっかけでした。

今はどこにいるのかわかりません。遠い空の下でまた誰かに怒られてるのかもしれません。

愛すべきダメおやじコレクション #2

#2

 

伝説のT男ちゃんという人がいた。

勝手に伝説にしたのはおっさんなんだけれども。

このT男ちゃん、おっさんが入社したときにはもう五十後半で、何もないところでよく転ぶ人だった。

ヒョコヒョコ歩く姿はなんだか危なっかしくて、滑りやすいステップを昇るときなんかはおっさんそうっと後ろについたもんだ。言葉がイマイチ不明瞭で、何言ってんのかよくわかんないT男ちゃん。身長が低くて禿げてて目が細い。一見穏やかそうだが短気な人で、気に入らないことがあると誰にでも食って掛かるようなところがあった。

そのT男ちゃん、矢沢栄吉と同い年なんだそうで、そのことを絡めて彼我の差異を自虐気味に語ることがよくあった。

「奴ぁギター、俺ぁスコップよう」

T男ちゃんのテッパンである。何度も聞いたその自虐ネタで、休憩所にひととき笑いが起こる。

実際T男ちゃんは年がら年中スコップを持っていた。老眼で細かい文字が読めないのと難聴気味なのとで機器の点検などは無理だったから、大雑把な力仕事ばかり割り振られていたのである。一年の大半はスコップを振るっていた。夏には真っ黒に日焼けして、冬には合羽姿で。

おっさんも加勢に行くことが度々あったのだが、T男ちゃんには到底敵わなかった。粘り強いのである。ペースはおっさんのほうが速い。だがその分すぐヘバる。手が止まってT男ちゃんに目をやると、わき目も振らずに黙々と作業している。仕様がないのでおっさんもスコップを振るう。振るっては手が止まりT男ちゃんを眺める。大きく息をついてスコップを振るう。その繰り返し。

「一服するかあ」

その声を待っていたおっさんはスコップを放り出す。

T男ちゃんは一緒のとき、いつでも缶ジュースを買ってくれた。

窓を開けたダンプに座って、何言ってるかよくわかんないT男ちゃんの言葉にカラ返事しながらタバコの煙を吐いていると「お前、聞いてんのか?」とT男ちゃん。

「あ、いや、ごめん聞いてなかった」というと片方の尻を持ち上げて屁をしやがった。「チッ」というとイヒヒヒと気持ち悪い声で笑った。

 

T男ちゃんはおっさんの知っている限り五回車を廃車にしている。

一ヶ月の間に3回事故ったときにはさすがにおっさんもひいたね。自分の車を潰して奥さんの車を潰してそれから代車も潰した。どうかしてる。

T男ちゃんはスピード狂だった。構内最速の男と呼ばれていた。20キロ制限の構内を60キロで走り、スロープでジャンプする男として有名だった。

むしゃくしゃすると夜の高速に乗り、制限速度を遙かに超えるスピードで走るのだと、自慢げに教えてくれたことがある。心配になるアホである。

 

フェーン現象の日をわざわざ選んで倒れた庭の大木に火をつけて、自宅を類焼させて消防車を五台呼んで次の日の新聞に載ったことがある。

親方に「あっという間に火ィでっかくなったんだろう」と聞かれて「うん」と答えた。

「怖かっただろう」と聞かれてまた「うん」と言った。

親方はしばらくじいっとT男ちゃんを眺めて「はは、馬鹿め」と言った。

 

小便しながら屁をしようとして死にかけたことがある。

 

T男ちゃん、奥さんにだけはやたら強気。

ある日の昼、休憩所に戻るとNさんとT男ちゃんが口論していた。奥さんを邪険に言うT男ちゃんに見かねてNさんが釘を刺したら口論になったという。

T男ちゃんの奥さんが弁当にエビチリばっかり入れるので、どやしつけたら泣き出したというのである。

T男ちゃんの亭主関白ぶりはみんなが知っていた。この前は借りてきたエロビデオを奥さんに返しに行かせるんだと自慢げに話していた。

「あのなT男、俺たちは家にいさせてもらってんだぞ。少しは嫁さん敬え」

「バカヤロウ、いさせてやってんのはこっちだっちゅうんだ、女なんか黙って言うこときいてりゃ…… ぬあっ!」

弁当の蓋を持ち上げたままT男ちゃんが絶句した。何事かと見ていると、

「……ゆんべサスケが食わなかった餌がそのまま入っとる」

とうなだれた。ちなみにサスケとはT男ちゃんが飼ってる猫の名前である。

「な、だからいさせてもらってるって言ってんだ」

何食わぬ顔でNさんがケータリングの弁当を頬張った。

 

たまたま便所で横に並んだので「小便しか出ねえ」とおっさんが言ったら泣きそうな顔でこっちを見て「小便も出ねえ」と言った。

後に前立腺の病気が発覚した。

 

長生きして百まで年金を貰ってやるんだと意気込んで、六十になった途端に「清々した!」と捨て台詞を吐いてさっさと退職していった。その翌年に死んじゃった。

また会えるもんだと思っていた。あんなに元気だったのに、ステージ4の癌だったらしい。発覚した頃には遅かったそうだ。

おっさんがそれを聞いたのはだいぶ後になってからのことだった。せめて手を合わせに行きたかった。

「T男ちゃん…… 嫁さんにやられたんだ」誰かが言って小さな笑いが起こった。不謹慎だと思う者はいない。愉快なおやじだった。ギャグみたいなおやじだった。

今でも時々T男ちゃんの思い出話が出る。そういう時は全員で涙が出るほど笑う。T男ちゃんのことを知らない若い奴まで腹を抱えていて、それを見るとおっさんはやけに嬉しくなる。

T男ちゃん、あんたのことを知らない奴までこんなに笑ってるぜ。あんたすげえな。伝説だよ。

 

 

愛すべきダメおやじコレクション #1

#1

 

おっさんはあるプラントで働いている。規模の大きなプラントだ。残念ながらおっさんはそこの社員ではなくて、そこに常駐している保守、保全、修理などを請け負う会社の、そのまた下請けの業者だ。

常駐しているいわば『何でも屋』で、だからプラントの社員さんはおっさんにとってお客様になる。で、おっさんは二次なので直接お客様とやりとりすることは殆どない。

お客様から元請さん、そこからおっさんのとこへと、仕事の依頼は伝言ゲームのように下りてくる。

何でも屋だから仕事の内容は雑多で、点検や保守業務の他に機器の分解点検工事を請け負ったり、要請されれば草刈をしたり、誰かの出したゴミを片付けたり、重機に乗って除雪したりもする。機械が相手の仕事なので午前2時に電話で起こされたりもするし、24時間家に帰れない時もある。

一度なんかは地域住民で組織される『○○の会』とやらが視察に来るというので、視察経路の手摺を全部拭いて欲しいという依頼まであった。上空をテレビ局のヘリが飛ぶから、指定箇所にブルーシートをかけてくれって地図を渡されたこともあったなあ。

で、おっさんの会社はというとそこそこにマイルドなブラック企業なので、賃金が安いから人が寄り付かん。来たとしても人生に膿み疲れたような四十後半から六十過ぎのおやじばっか。こないだ初めてウォーキングデッドを見ててなんか親近感湧くなあと思ってたら目がそっくりだった。クリソツ。

そんなアンデッドたちは一様にキレが悪い。おっさんが「そろそろ現場にいきましょうか」と声をかけたとたんに「ウンコしてきていいですか」とか言い出す始末。三十分も休憩させてやったのになぜ今ウンコか。と思わないでもないがいつものことなのでタバコを吸いながら静かに待つ。トイレから戻ってきたおやじが「すいません」でもなく「おまたせしました」でもなく「さあ、行きましょうか」でもなく黙っておっさんの隣に座ってタバコに火をつける。プシュって音がしたので目をやるとヤロウ缶コーヒーを飲み始めた。わけがわかんねえ。

「すぐ行くって言ったよね?」

「え、だってタバコ吸ってるから……、まだ休憩してていいんだと思いました」

はあ。

「……それ飲んだら行きましょうか」

実話である。

そんなおやじ達が入れ替わり立ち代わり入ってきては辞めていく。一年で10人近くが入れ替わった。ほぼ1ヶ月ペースだ。そこだけとると恐ろしくブラックな会社に見えるがそんなことはない。前述したように突発の仕事もあるにはあるが基本週休二日だし、祝日も休みだし、残業することも殆どない。なのになんで異様なまでに人が続かないかっていうと来る者拒まずで採用するからに他ならない。

言うたって3Kと呼ばれる業種、若い人には敬遠される。賃金が安いからやる気のある人材と家族持ちは来ない。あぶれている四十過ぎの一人もんばかりがやって来るのは必然なのである。履歴書は引換券ではないし会社は駆け込み寺じゃない。その辺ちゃんと考えないからこうなった。酒臭い歯のないおやじ達がたむろする事務所の様は自立支援の施設のようだ。

で、前述した10人である。その半分は朝電話をかけてきて「頭が痛い」だの「熱がある」だの「腰が痛い」だのと言ってそのまま来なくなるパターン。もう半分は突然出社しなくなるパターンだ。珍しく「もう辞めたいんです」とおっさんに相談してきたおやじがいたので理由を聞くことができたのだが、曰く「こんな安い給料でここまでやらされるとは思わなかった」だそうだ。

それ言われるとしょうがない。「わかりました」と言うしかない。上に伝えておきます、と。

なんにもやらせてないんだけどなあ。一週間も経ってないのにもう判断しちゃうのかい?

若い子ならばそこまで言うかも知れない。でも毎朝酒臭くて現場の脇でゲロ吐いちゃうような五十近いおやじには何も言ってやらない。

 

で、そんなこんなで事務所に抗議したら現場サイドで面接することになりまして、それ以降は突然来なくなる人もいなくなりました。

 

和気藹々としたアットホームな職場です。

 

愛すべきダメおやじコレクション #0

#0

 

おっさんね、ブログを始めようと思う。

昔やってたことがあるの、ブログ。

もう15年くらい前、おっさんはしょうもないミュージシャンをやっていて、そん時に自分のHPにリンク貼って書いていた。あのときははてなダイアリーだった。

けっこう周囲の評判はよかったように思う。音楽関係の冊子に、依頼されてコラムを寄稿したこともあったから、それなりに良い出来だったんだと思う。どこかで紹介された記憶もある。

非常に嬉しかったもんだ。書くことも好きだったしね。

でもやめた。真人間になろうと一念発起して、しょうもないミュージシャンと一緒にブログもスッパリやめた。途端に家族ができた。だから一生懸命働いた。

家族と仕事。それだけあれば人生はそこそこ忙しい。

おっさん若い頃はけっこうなクズだった。今マトモなのかといわれれば良く分からんが、それでもあの頃よりはましだと思ってる。ミュージシャンをやめたおかげだ。曜日の感覚も身についた。ありがたい。

お天道様とともに寝て起きて、神棚に水を上げて手を合わせてから家を出る毎日。そんな日々を積み上げてゆくうちに、それなりに夫として、父親としての自分が形成され、幾許かの分別臭さも身につけ、片田舎の村社会に属する自分というものを認識できるようになった。村でも会社でも、まつりごとや方針に疑問を持たない。異論を挟まない。

行動原理の外側に自分の描いた父親像を被せたら自然とそうなった。

標準的おっさんの完成だ。

そのおっさんがなんでまたブログを始めようと思ったのかというと、別に昔を思い出して哀愁にとらわれたからとかじゃなくて、衰えてゆく自分に抗いたいからとかでもなくて……

 

単にネタがあるからなんです。

 

おっさんの周りにね、なんでか変わった人がやたら多いの。

もう変人。変人ばっか。そういう人たちとの濃密な交友記録を書き留めたいと思ったのは、そういう人たちがちょっとずつおっさんにくれたストレスのせいかもしれないね。腹いせともいうのかね。

まあとにかく、おっさんがこれまでに出会った愛すべきダメおやじたちを、ディテールをぼかしながら一人ずつ紹介していきたいと思います。

興味のある方、是非お付き合いの程。